石垣健一氏(神戸大学名誉教授)の論稿「異次元金融緩和政策はどうしてうまく働かないのか」(2017年12月、『神戸学院経済学論集』第49巻第3号(山上宏人教授退職記念論文集)所収)は、日銀自身の資料をもとに日銀の金融政策を検討して、異次元金融緩和の帰結を次のように総括されている。
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異次元金融緩和はフォワードガイダンス、マネタリーベース(MB)の急速な増加、長短金利操作の増強にもかかわらず、「期待」に、2013年の開始時期を除いて明白な効果を発揮できていない。
A
MBの増加は流通速度の低下をもたらすだけで名目GDPの増加、したがって消費者物価上昇率の上昇に結びついていない。経済の総需要はMBあるいは貨幣量の管理だけではコントロールできないということである。
B
異次元金融緩和はMBの対GDP比率を歴史的、国際比較的に見ても異常なほど高くしてしまった。日本銀行は物価安定を目指す中で、この異常事態をどのように解決するのであろうか。
石垣氏は、「インフレ目標政策」をデフレ脱却政策として採用することの根拠のなさ(インフレ抑制の場合との非対称性)を理論的にもっとも重要なことと指摘されている。
この石垣氏の結論にわたしはまったく異論がない。ただわたしは以下のような政治経済的な意見をこの問題に投じておきたい。
1.「異次元金融緩和」の成果としては、本来の目標(2%の物価上昇率)とはちがって、為替レートの円安誘導、株価維持の2点を挙げうるであろう。この2つはアベ政治が強く要求してきたもので、その意味で黒田日銀はアベ政治の意向に沿う金融政策を採ってきた。アベ氏が自民党総裁に再選された時点で、当時の白川日銀総裁にかけた圧力のひどさ・えげつなさをよく記憶している。黒田日銀で「日銀の独立性」は何処へ行ったのであろうか?
2.国債の大量購入という金融政策は、財政面(アベノミクスの第2の矢)での国債の大量発行(財政規律の軽視)を事実上助ける働きをしている。財政の下僕になっている金融と言えないであろうか?
3.いまや2%という物価上昇率はあくまで異次元金融緩和政策を続けるための「口実」と化している。達成時期の度々の先延ばしが雄弁に語っているように、2%が達成可能かどうかはどうでもよくなっているとさえ言えそうだ。石垣氏が指摘しているように、資産バブルとその崩壊による落ち込みの危険が心配である。「出口」の議論(事態収拾の議論)を日銀は誠実にしなければならない。(黒田日銀の姿勢は、最期に「神風」が吹くと宣伝して戦争を継続したかつての日本の姿を想像させさえする。「出口」の模索は戦争終結への外交的努力に相当する。)
(安井修二、2018年7月15日)
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